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静岡地方裁判所 昭和60年(行ウ)12号 判決

静岡県浜名郡舞阪町舞阪三七三四番地の二

原告

杉本正博

同県浜松市中田島町九五三番地の四

原告

杉本忠博

右両名訴訟代理人弁護士

三井義廣

同県浜松市元目町三七番地の一

被告

浜松税務署長

鈴木清彦

右指定代理人

林菜つみ

安達繁

永田英男

望月国雄

谷端勉

川原雅治

主文

一  原告らの請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が昭和五八年一〇月二六日付で原告杉本正博、同杉本忠博に対してした各昭和五七年分贈与税の決定処分及び無申告加算税の賦課決定処分を取消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文と同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  被告は原告らに対し、昭和五八年一〇月二六日付で次のとおり贈与税の決定処分及び無申告加算税の賦課決定処分をした。

(一) 原告正博に対する処分

課税価格 三〇〇万円

納付すべき税額 五六万円

無申告加算税額 五万六〇〇〇円

(二) 原告忠博に対する処分

課税価格 一〇〇万円

納付すべき税額 四万円

無申告加算税額 四〇〇〇円

2  原告らは、昭和五八年一二月一六日異議申立てをしたが、被告は昭和五九年三月一五日これを棄却した。原告らは、同年四月一三日審査請求をしたが、国税不服審判所長は昭和六〇年五月三〇日これを棄却する裁決をした。

3  しかし、被告がした本件贈与税決定処分は贈与により取得した財産の価額を過大に評価したものであるから違法であり、したがつて右処分を前提としてされた無申告加算税賦課決定処分も違法であるので、本件贈与税決定処分及び無申告加算税賦課決定処分の取消しを求める。

二  請求原因に対する認容

請求原因1、2項は認める。

三  被告の主張

1  本件贈与税決定処分の根拠

(一) 訴外廣瀬福子(以下「廣瀬」という。)は昭和五七年一月五日同人の経営する訴外有限会社上池自動車教習所(以下「本件会社」という。)の出資持分を原告正博に対し一五〇口、原告忠博に対し五〇口贈与した。

(二) 本件会社の出資一口当たりの券面額は一〇〇〇円であり、年配当率は、昭和五五年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度(以下「五五事業年度」という。他の事業年度についても同様とする。)が四〇〇パーセント、五六事業年度が零パーセントであるところ、相続税財産評価に関する基本通達(以下「評価通達」という。)一九四、一七八(2)イ、一八四、一八八(3)イに基づいて

〈省略〉

の算式により出資一口当たりの価額を評価すると、二万円となり、これは、評価通達一七九により計算した価額より低額であるから、本件会社の出資一口当たりの価額である。

(三) 原告らの昭和五七年分の贈与税の課税価格は、原告正博については、本件会社の出資一口当たりの評価額二万円に同人が贈与により取得した本件会社の出資口数一五〇口を乗じた三〇〇万円となり、原告忠博については、本件会社の出資一口当たりの評価額二万円に同人が贈与により取得した本件会社の出資口数五〇口を乗じた一〇〇万円となる。

原告らが廣瀬から贈与により取得した出資持分の価額は、それぞれ三〇〇万円、一〇〇万円であるから、右価額を課税価格としてなした本件贈与税決定処分は適法である。

2  本件無申告加算税賦課決定処分の根拠

原告らは昭和五七年分の贈与税の申告をしなかつたので、被告は国税通則法(昭和五九年法律第五号による改正のもの。以下同じ。)六六条一項の規定に基づき本件贈与税決定処分により納付すべき税額五六万円及び四万円にそれぞれ一〇〇分の一〇の割合を乗じて算出した無申告加算税五万六〇〇〇円及び四〇〇〇円を賦課決定したものであり、本件無申告加算税賦課決定処分は適法である。

四  被告の主張に対する認否

1  被告の主張1の(一)は認める。

同1の(二)のうち、本件会社の出資一口当たりの券面額が一〇〇〇円であること、本件会社の五五事業年度の年配当率が四〇〇パーセントであり、五六事業年度の年配当率が零パーセントであること及び被告主張の算式により計算した価額が評価通達一七九により計算した価額より低額であることは認め、評価通達一九四、一七八(2)イ、一八四、一八八(3)イに基づいて前記算式により計算した価額か二万円となくことは否認する。同1の(三)は争う。

2  同2のうち、原告らが贈与税の申告をしなかつたことは認め、その余は争う。

五  被告の主張に対する原告の反論

本件会社の出資者の構成は昭和五六年以降同族関係にない従業員にまで拡大し、また昭和五六年以降経営方針を変更し、物的資本の充実に努めるようになつたのであつて、同族経営の五五事業年度における四〇〇パーセントの配当率中には、特別配当、記念配当等の名称による配当率ではなくても、実質的にみて、将来毎期継続することが予想できない特殊な配当率が含まれており、これらは前記算式の年平均配当率から控除されるべきである。

六  原告の反論に対する認否

争う。

第三証拠

本件記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  請求原因1、2は当事者間に争いがない。

二  本件贈与税決定処分の適法性について判断する。

1  廣瀬が昭和五七年一月五日同人の経営する本件会社の出資持分を原告正博に対し一五〇口、原告忠博に対し五〇口贈与したこと、本件会社の出資一口当たりの券面額が一〇〇〇円であること、本件会社の五五事業年度の年配当率が四〇〇パーセントであり、五六事業年度の年配当率が零パーセントであること及び被告主張の算式により計算した価額が評価通達一七九により計算した価額より低額であることは当事者間に争いがない。

成立に争いのない乙第五、第六号証、証人高見功祐の証言及び原告正博本人尋問の結果によれば、本件会社の五五、五六事業年度の配当は普通配当のみであつて、特別配当、記念配当等の名称によるものはないこと、本件会社の出資は、五五事業年度は一〇〇パーセントを廣瀬とその子である廣瀬恭寛、廣瀬孝之が、五六事業年度は九五パーセントを右三名が所有していたことが認められる。

2  相続税法二二条は、贈与に因り取得した財産の価額は、当該財産の取得の時における時価によると規定し、成立に争いのない乙第一号証によれば、評価通達において、財産の評価に関する基本的な取扱いを定めていることが認められる。

右乙第一号証(評価通達)によれば、評価通達は、有限会社についての出資の価額は、株式の評価方法に準じて計算した価額によつて評価するとし(一九四)、課税時期における評価しようとする会社の出資者のうち、出資者の一人及びその同族関係者の有する出資の合計数がその会社の出資数の三〇パーセント以上である場合におけるその出資者及びその同族関係者を同族出資者とし、同族出資者以外の出資者の取得した出資については、評価通達一七九の定めにより評価するものであるものとして計算した金額を超えない限り、その出資に係る年配当率及びその出資一口当たりの金額を基として

〈省略〉

の算式により計算した金額によつて評価するとし(一七八(2)イ、一八四)、右年平均配当率は、直前期末以前二年間の各事業年度におけるその会社の利益の配当金額の算定の基となつた年配当率から、特別配当、記念配当等の名称による配当率のうち、将来毎期継続することが予想できないものの率を控除した率の合計数をその期間の事業年度数で除して計算した率とする(一八八(3)イ)旨定めていることが認められる。

これは、取引相場のない出資で、同族出資者以外の出資者の取得した出資については、出資を所有することによる経済的実益が配当金の取得にある点を考慮し、配当金を収益還元することにより出資を評価しようとするものである。したがつて、出資を取得した時において、将来取得する配当金を算定しなければならないが、将来の配当金の実額を知ることは不可能であるから、直前期末以前二年間の各事業年度におけるその会社の利益の配当金額の算定の基となつた年配当率から、特別配当、記念配当等の名称による配当率のうち、将来毎期継続することが予想できないものの率を控除した率の合計数をその期間の事業年度数で除して計算した率を基とし、出資を評価することにしたものであり、客観的かつ公平な評価を確保するため、会社が現実に行つた経常的な配当金に着目して出資の現在の価値を求めようとするものであつて、合理的なものであるというべきである。

3  そうすると、被告が評価通達一九四、一七八(2)イ、一八四、一八八(3)イに基づいて本件会社の出資一口当たりの価額を二万円と評価したことは相当といわなければならない。

4  本件会社の五五事業年度の配当には、特別配当、記念配当等の名称によるものはない。

本件会社の五五事業年度の年配当率は四〇〇パーセントであり、当時本件会社の出資の一〇〇パーセントを廣瀬ら同族が所有していたが、五六事業年度には、年配当率は零パーセントとなり、廣瀬らの出資持分は九五パーセントとなつているが、成立に争いのない乙第二ないし第六号証によれば、五二事業年度から五六事業年度までの本件会社の当期末処分利益、年配当金額等は別表本件会社の業績等の推移記載のとおりであることが認められ、五五事業年度の配当率が出資者の構成に基づく異常なものであるということはできない。この点に関する証人高見功祐の証言、原告正博本人尋問の結果は採用し難い。

5  したがつて、原告らの本件贈与に係る出資の価額は被告の本件贈与税決定処分の課税価格と同額であるから、本件贈与税決定処分に違法はない。

三  原告らが贈与税の申告をしなかつたことは当事者間に争いがないから、被告が原告に対し、国税通則法六六条一項の規定に基づいてなした本件無申告加算税賦課決定処分に違法はない。

四  よつて、本件贈与税決定処分及び無申告加算税賦課決定処分の取消しを求める原告らの請求はいずれも理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法、民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 大前和俊 裁判官 河本誠之 裁判官 足立哲)

別表

本件会社の業績等の推移

〈省略〉

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